群言堂は素晴らしき自転車操業!?
この読みものは、2025年6月発売、松場登美『登美さん つくる、つくろう、私の人生』(株式会社いま&ひと)より、一章「登美さんが語る――創造の源泉」を一部抜粋したものです。
大森町に帰郷したときから、理想郷をつくりたいと願っていた私たち夫婦は、ここでみんなが働いて暮らせるようになろうと事業を立ち上げました。
一般的に会社を設立するには、資本金がいくらとか、役員や報酬がどうとかいうけれど、私も大吉さんも全くそういう計算もしないし、計画も立てない。のん気な私は「できちゃった会社」なんて言っていたほどです。しかし、おかげさまで会社は30年以上、継続しています。私たちは常に社会から必要とされる事業でありたいと、ずっと思ってやってきました。
設立当初から私たちが大切にしてきたことは、非効率なこと。効率優先、つまり経済を優先させて文化をなくしたら、その結果、魅力もなくなり、経済も失ってしまうと、よく話していました。大吉さんが象徴的に言うのは「文化50%、経済49%、崇高な理念1%」というバランス。高い志や理念という厚い壁があれば、経済が文化を揺るがすことはないということです。
そもそも経済とは、社会性や文化性を動かすもの。そうとらえているのが、私たちの事業の特徴です。
デザイナーの佐藤 卓さんが「群言堂は素晴らしき自転車操業」と言ってくださいましたが、それを当社のスタッフが絵にしてくれました。
大吉さんと私は、それぞれの自転車に乗り、私の自転車の後ろのかごには「衣・食・住・美」が入っている。そして後輪の経済性が、前輪の社会性と文化性を動かしている。ハンドルは経営者自らが握り、戦略を決める。そして強い理念でペダルを踏みこむ。
私の自転車のかごの中に、まとめて「衣・食・住・美」が入っているように、私にとっては、ものをつくるのも空間をつくるのも全く違いはありません。どちらも暮らしの中にあるもので、こんなのがあったらいいなと思ってつくるだけです。この町の家に住んで、なじむ、違和感のないもの。
ですから私は自分の暮らしというものを考えたときに、経済は必要だけど儲かればいいのではなく、こういうものをつくって、こういう場をつくって、それでお客さまに喜んでもらえて、私たちも食べていけたらいいな、そう考えてきました。
私には、いつかそういう時代が来る、そういうことを喜んでくれるお客さまがいてくださるという確信は、常にありました。社会性というのは、強く意識していましたから、私が場をつくったら、いろいろな人の力で広めていただける。そのためには、儲けを先に考えるのではなく、まずお客さまに喜んでもらう。
古民家再生にしても、家が喜べば、私たちもうれしい。お客さまも喜んでくださる。みんなで喜び合う、これこそが「美しい循環」だと思うのです。
