インディゴつぎはぎ刺子ジャガード|あの布のこと、話したくて。vol.1

群言堂の服づくりは、いつも布づくりから始まります。そしてそれは、布づくりに情熱を抱く日本各地の「人」の存在なくしては成り立ちません。「あの布のこと、話したくて」は、そんな愛すべき人々にご登場いただく対談シリーズ。群言堂のテキスタイルデザイナーと、ものづくりの苦楽を共にする仲間との対話を、どうぞお楽しみください。


ゲスト
一村正吾さん(菱友商事/広島県)

佐賀県育ちの九州男児。縁あって移住した広島県福山市で、テキスタイルの企画・生産・販売を行う菱友商事に入社。デニムを中心に、さまざまなテキスタイルや製法・技術にアンテナを張り、機屋さんや染工所といったものづくりの現場と群言堂をつなぐ橋渡し役として活躍中。つくり手の思いを受け止める懐の深さは、群言堂社内でも絶大な信頼を集めている。

半田祥子(群言堂テキスタイルデザイナー)

美大の工芸学科で学び、卒業後は個人で制作活動も行いながら自身の働き方を模索。「工芸」と「量産」のギャップを埋めるものづくりをしたいという志から、群言堂のあり方に共鳴し入社を志願。販売員を経て、2013年からデザインチームに加入。現在はテキスタイルデザイナーとして、全国各地の取引先に支えられながら「国産の布」の可能性を探求する日々を送っている。

これまでにやったことのない「刺子」の表現を求めて

布を重ねて太い糸でザクザクと刺子をほどこしたような、立体感あふれる表情。インディゴの深い色味も美しいこの布は、2025年12月に発表された新作「インディゴ刺子つぎはぎジャガード」。冬から春までの季節を共に過ごしたくなるぬくもりが魅力です。テキスタイルデザイナー半田にとって、この布づくりのテーマは「これまでにやったことのない刺子の表現を模索すること」でした。

半田
群言堂ではこれまでに何度も刺子をテーマにした織物をつくってきましたが、今回はあえて、現代的な感覚を取り入れたかったんですね。これまでは実際に針と糸を使って布に刺子をして図案にすることが多かったんですが、今回は針と糸は使わず、太めのマジックペンで紙にドットを描いて図案をつくりました。太い糸でザクザクと刺したようでもあり、水玉みたいにも見える、というちょっと可愛らしさのある世界観にしたいなと思って……。

さまざまな画材(時には針と糸も)を使って、手を動かしながらテキスタイルデザインを考えるのが半田スタイル。筆で描くか、ペンで描くかでも雰囲気は大きく変わります。

生産の窓口になってくださったのは、日本が誇るデニム産地・備後の中心都市、広島県福山市に拠点を置く菱友商事の一村正吾さん。染めや織り、各種加工を担う各工場と連携を取りながら、私たちの求める布を形にしてくださる産元(さんもと)、いわば産地のプロデューサー的な役割です。

半田
図案をつくったら、イメージしている色や織り方、風合いなど、伝えたいことを全部依頼書にまとめて一村さんに送って、あとはとにかく電話で徹底的に話す!っていう。だいたいいつもそんな感じですよね。

一村
以前にも似たような風通織(二重織の一種)の生地をつくらせてもらったことがあったので、今回、半田さんが求めていたイメージもわりとすぐに把握できました。でも「生機(きばた)洗い」をしたのは今回が初めてでしたよね。(註:生機とは、織り上がったままの状態のこと。防縮加工などをほどこしていないため、生機の状態で洗いにかけると強く収縮します。)

半田
そうそう。これまで以上に強く凹凸感を出したくて、一村さんに「生機洗いでギュンッと縮めてください」ってお願いしたんですよね。

生機に洗いをかけて縮ませることで、刺子らしく波打つような風合いになり、インディゴの色はより青く冴えて美しく。
こちらは裏の表情。刺子の糸目がしっかり表現された質感に加えて、四角や三角のはぎれをつぎはぎしたような凹凸感が味わい深く、つい裏地まで見せたくなりそうです。

一村
普通は生機からは洗わないですから、できあがった生地を見て、こんなにプクプク、ボコボコしてていいのかな?って思いましたけど、それが半田さんの狙いだったんですよね。本当のことを言うと、横も縦も縮むのかなと想像していたら、縦方向は全然縮まらんかったんでびっくりしました(笑)。蓋を開けて初めてわかることがいろいろある。これはもう「ものづくりあるある」です。

備後に1台しかない、特殊な織機が叶えた風合い

半田
これ、パイルジャガードっていう特殊な織機を使って織られているって聞いたんですが……。

一村
そうなんです。その織機を持っている機屋さんが備後でも一社しかなくて、それもずっと注文で埋まってるもんだから、隙間を狙ってねじ込ませてもらうしかなかったんですよ。

半田
早くしないと間に合わなくなるって一村さんにも言われて、大急ぎで発注かけましたよね。これは普通のジャガード織機とどこが違うんですか?

一村
平織生地を思い浮かべてもらうとわかると思うんですけど、普通は経糸(たていと)の長さって全部共通じゃないですか。1mの生地を織るなら経糸も1mですよね。でもパイルジャガード織機って、もともとタオルなどのパイル生地を織るための機械なので、パイルになる経糸と、下地になる経糸とで長さを変えられるんです。とてもチャレンジ精神旺盛な機屋さんで、そういう機能を生かして、パイル以外の面白い生地をいろいろつくっているんですよ。

半田
一村さんと一緒に伺ったことのある、あの工場さんですよね。

機屋さんが拠点を置くのは岡山県井原市。戦後まもない頃からデニム製造を始めた老舗です。

一村
今回、初めて生機洗いをしたでしょう。機屋さんに聞いたら、布のミミと本体とで収縮率が違うせいで、ミミがつったような状態になってしまったらしくて。それを解消するのにミミの組織を10回以上変えて洗いのテストをしてくれてたんですって。

半田
わあ、そんなことまでやってくださっていたんですか。縫製前の裁断って、布を何枚も重ねてカットするので、そこで布がつれて歪んでいると、正確に作業できないんですよね。改めて機屋さんにお礼をお伝えしておいてくださいね!

「信頼」から広がる、布づくりの可能性

一村
でも考えてみたら、群言堂さんとの関係性がこんなに深くなったのは、3年ほど前からですよね。

半田
ちょうどその頃から、私がテキスタイルデザインの専任になって、それまで以上に深く産地の方々とお話しさせていただく機会が増えたんです。製法や技術についてもそれまで以上に詳しく突っ込んで学ぶようになりましたし。

一村
でも最初に僕が群言堂さんに生地のご提案に行った時は、大スベリしたんですよ(笑)。台車2台分ほどの生地を車に積んで石見銀山まで伺ったんですが、メンズ色の強い生地ばかりだったからですかね、「全然ハマらんかったなあ」とがっかりして帰ったのをすごく覚えてます。でもあの時、石見銀山の本店やカフェにお邪魔して、群言堂さんの求めている世界観がなんとなくわかった感覚もありました。

半田
そこから当時やっていた「根々」というブランドで、菱友さんとお付き合いが始まって。いろいろ一緒にものづくりをさせていただく中で、一村さんのお人柄だとか、アクティブに動いている備後産地のパワーにどんどん惹かれていったんです。一村さんって本当に人たらしというか、ちょっと気難しい職人さんなんかも、みんな「一村さんが言うならしゃあないか」ってほだされちゃうんですよ。

一村
いつの頃からか、誰に対しても、あんまり嘘を言わないようにしようって決めたんですよね。そこからいい感じにうまく行くようになったのかもしれません。試し織りの生地を見て、気になったことがあれば工場さんにも包み隠さず言いますし。その場を変に取り繕ったりごまかしたりしていると、かえって変なことになりますからね。

さまざまな職人さんたちとよい関係を築くのは産元さんの大切な仕事。

お付き合いが深まるほどに、ものづくりの引き出しが豊かになっていく

半田
最近は、一村さんから「こんなアイデアはどう?」って提案してくださることも多々あって、ありがたいなと思っているんです。

一村
デザイン的なことは僕にはよくわからないですけど、一風変わったことをしているつくり手とつながることが多いので、こういうこともできますよ、というのはできるだけご紹介して共有したいなと思っています。そういう面白いつくり手さんって、地方にいらっしゃることが多いでしょ。ちょっと変わったつくり手に会いに、まだ行ったことのない土地を訪ねる時間を、これからもっと増やしていきたいなと思っているんです。

半田
旅する産元さん、いいですね!そうやって備後だけに留まらず広く全国にアンテナを張ってくださっているのは、すごく心強いです。一村さんって難易度高めの相談にも、決して「無理です」とは言わずに「わかりました、一度聞いてみます!」って前向きに応えてくださるじゃないですか。そういう一村さんの姿勢を、私ひそかに見習ってる部分があって。やっぱりデザイナーとして、いろんな課題に直面するたびに「そんなの無理!」って言いたくなる瞬間があるんですけど、そんな時も一村さんみたいに、ノーと言わずにいったん受け止めてみたらいいんだよな、なんて。

一村
いやあ、でも毎シーズン何種類もテキスタイルデザイン考えて、ちゃんとヒットも出さないといけないプレッシャーもあるんだから、大変ですよね。

半田
煮詰まることはしょっちゅうですけど、やっぱり私は、菱友さんみたいな産元さんとか職人さんに助けられて育てられて今の自分があると思っているんです。皆さんと日々いっぱい話し合って試行錯誤を繰り返すうちに、思ってもいなかったような新しいものが生まれていた、ということがしょっちゅうなんです。自分ひとりではとてもこうは行かないですね。

一村さんと一緒につくり上げたインディゴ刺子つぎはぎジャガード。さまざまな人の思いをつないで生まれた布は、愛おしさもひとしおです。

普段のやりとりの空気感そのままに、終始ほがらかなムードに包まれた特別対談。一村さんと半田の対話にふれて改めて感じるのは、「布づくりとは、人をつなぎ、技をつなぐこと」という事実です。私たち群言堂は、これからも全国各地のつくり手とのつながりを大切に、「国産の布」の可能性を追求していきます。

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