幾つになっても ワクワクしながら 生きるということ。| 登美さんからの手紙

昨年秋、私の「終の住処」が完成しました。古い土蔵を改修した小さな平屋で、目の前には銀山川が流れ、川向こうには茅葺きの家「鄙舎」と田んぼの眺めが広がっています。朝目覚めると、私は窓を開け放ち、ウッドデッキに出てこの眺めを味わいます。そして、こんな贅沢がほかのどこにあろうかと思うのです。

今、眼前に広がっている景色は、私が約40年前に「こうだったらいいな」と夢見た世界が現実になったものです。この山間のまちを居場所と定めて以来、この地に根ざしたものづくりをしたいと願い続けていた私は、1994年、縁あってタイ・チェンマイにある染め織りの工房村を訪ねました。そこで私が見たのは、景観と人の営みが見事に調和した一つの理想郷。「私がやりたいのはこういうことなんだ」という思いも新たに帰国した、そのわずか二週間後、広島県にある築250年の豪農の屋敷が解体されることになり、引り取り手を探しているという知らせが飛び込んできました。私たちは大借金と引き換えにその茅葺きの家を手に入れ、この地に移築したのです。まさに「心想事成」です。

あの頃も今も「ワクワクしながら生きたい」というのが私の信条です。そして本当のワクワクというのは、ただ楽しいだけの呑気なものではないと思うのです。失敗するかもしれない。逆風が吹くかもしれない。それでも一歩踏み出さずにいられない。そんな衝動がもたらす胸の高鳴りこそ、私を突き動かす力です。

世間では「歳を取ったら仕事から解放されて悠々自適」が理想かのように語られますが、私はそうは思いません。 むしろ自分ひとりのためでない暮らし方働き方を一層深めていきたいのです。

たとえばこの家の土間には、私の工房があります。私はここで針と糸を手に、社会へのメッセージとなるようなものづくりをしたい。それから、この家の食卓をさまざまな人が集い交わる場にもしたい。そこで私は「飯炊き婆さん」となって腕を振るうのです。やりたいことがいっぱいで「老後不安」を感じている暇なんてありません。寒さが一段落した今、私の夢も大きくふくらんでいます。


石見銀山生活文化研究所 相談役
暮らす宿 他郷阿部家 竈婆
松場登美


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