布の“旬”を楽しむために

“旬”は、ふつうは食に使われる言葉ですが、布や服にも、年2回、暑くなる前や寒くなる前に引き出しの中身を変える衣替えに見られるように、季節ごとの“旬”があります。でももっと細かく見れば、服のそれぞれにぴったりの“旬”があります。それは例えば、麻なら夏向きというように素材で決まるところもありますが、それだけではなく、厚さや織り方などでも変わり、それらの要素が合わさって“旬”の布になり、衣服が作られています。

このように考えると、季節と服にはとても密接な関係があり、着ている服を通して季節を思うことは、四季のある日本ならではの楽しみかもしれません。そして昔の人々は、年を3ヶ月ごとに区切った四季だけでなく、15日ごとの二十四節気、5日ごとの七十二候と、とても細かく季節を捉え、暮らしに活かしたり、楽しんだりしてきました。

二十四節気

  • 立春、雨水、啓蟄、春分、清明、穀雨

  • 立夏、小満、芒種、夏至、小暑、大暑

  • 立秋、処暑、白露、秋分、寒露、霜降

  • 立冬、小雪、大雪、冬至、小寒、大寒

七十二候

  • 東風解凍、黄鶯睍睆、魚上氷、土脉潤起、霞始靆、草木萠動、
    蟄虫啓戸、桃始笑、菜虫化蝶、雀始巣、桜始開、雷乃発声、
    玄鳥至、鴻雁北、虹始見、葭始生、霜止出苗、牡丹華

  • 蛙始鳴、蚯蚓出、竹笋生、蚕起食桑、紅花栄、麦秋至、蟷螂生、
    腐草為螢、梅子黄、乃東枯、菖蒲華、半夏生、温風至、蓮始開、
    鷹乃学習、桐始結花、土潤溽暑、大雨時行

  • 涼風至、寒蝉鳴、蒙霧升降、綿柎開、天地始粛、禾乃登、
    草露白、鶺鴒鳴、玄鳥去、雷乃収声、蟄虫坏戸、水始涸、
    鴻雁来、菊花開、蟋蟀在戸、霜始降、霎時施、楓蔦黄

  • 山茶始開、地始凍、金盞香、虹蔵不見、朔風払葉、橘始黄、
    閉塞成冬、熊蟄穴、鱖魚群、乃東生、麋角解、雪下出麦、
    芹乃栄、水泉動、雉始雊、款冬華、水沢腹堅、雞始乳

七十二候などは、ちょっと見ると漢字ばかりでとっつきにくいかもしれませんが、よく見ると意味が分かるものがいくつもあり、光景を思い浮かべると楽しくなってきます。そして、そういったことを意識しながら服を着ていると、これまで以上に季節に敏感になって、今の暮らしの中でも自分たちが自然とともに生きていることが実感でき、日々を心豊かに過ごすことにつながるのではないでしょうか。少しずつ四季が曖昧になってきている今だからこそ、この楽しさには意味があるように思います。

そこで群言堂では、各地のショップとウェブページで、皆さまに私たちの布の“旬”をお伝えしていくことにしました。特にショップでは、“旬”の布と、その布で作られた服が、実際にお確かめいただけるようにディスプレイされていて、簡単な説明文もあります。そしてウェブでは、より詳しくその布の“旬”について説明しています。ご紹介する布の“旬”は、およそ1ヶ月から1ヶ月半とそれぞれですが、その時期を過ぎてもまだ楽しめるものもありますし、重ね着をすればもっと長く着られる服もあります。その布や服を楽しみながら、暮らしの中の季節を共に味わっていただければと思います。

そのほか、群言堂の布については、季節のカタログの『おりおり帖』とウェブページの「読みもの」で『暮らしの布図鑑』としてご紹介していますので、そちらも併せてご覧ください。