『小野寺久美子』の場合|三浦類の職場放浪記

群言堂本社で働く
小野寺久美子(おのでら・くみこ)さん

この記事は、2019年9月に公開されたものです。


アパレル業界から医療の世界へ

3人兄弟の末っ子として東京都武蔵野市に生まれた久美子さん。東京といえど水もきれいで緑もある環境で活発に育った。

6歳から24歳までガールスカウトをやっていたこともあり、生傷の絶えない子ども時代だった。

中学時代はやりたいことが分からずモヤっとしていたが、高校では服飾科を選び、ものづくりの楽しさに目覚める。

卒業後も文化服装学院で学び、アパレルの販売職に就いた。普通ならそのままアパレル一直線だが、実は仕事として続ける気はあまりなかった。

「何のために働いてるの?」そんな様子を見た姉からある日言われ、一旦好きなことを手放す決心がついた。

考えた末、看護師をしていた姉の誘いもあって看護助手としてパートに入ることになった。

看護の仕事はやりがいがあった。1年間のパートを経て正社員になり、その後推薦をもらって渋谷の看護学校にも通い、准看護師の資格を得た。

夫・拓郎との出会い

当時看護学校の帰りに立ち寄っていた渋谷の焼き鳥屋で働いていたのが、のちに夫となる小野寺拓郎だった。

何度も店に通ううちに付き合うことに。しかし引き続き正看護師の勉強をしていたので、学業と仕事と交際で毎日がめまぐるしかった。

准看護師の資格だけで十分とも感じていたので、妊娠を機に思い切って看護学校を辞めることにした。


付き合って初めての旅行先、宮崎・鵜戸神宮でのツーショット

時間に追われた東京での子育て

結婚をして、2011 年8月に長女が生まれた。

最寄りの認可保育園には入れず、少し離れた無認可保育園に預け、働きながらの子育ては始まった。

なかなか思い通りの時間に帰れず、一日10時間預けるのも当たり前。保育園にいる間、親と離れてしまう娘の気持ちを想像する余裕もなかった。

仕事終わりの食事はマックやコンビニ。仕事は充実していても、ただただ時間に追われる日々だった。あのまま東京にいたらどんな家庭になっていただろう、と時々考える。

突然決まった大森への移住

大森への移住が決まったのは2014 年のこと。

当時西荻窪にある群言堂のカフェRe:gendo(りげんどう)(2026年現在は、群言堂 西荻窪店として営業)で働いていた夫が会長の大吉つぁんから「大森へ来ないか」と誘われたのだった。

夫は研修のつもりで「行く」と返事をしたのだが、どうやら研修という意味ではなかったらしく、気がつけば阿部家で働くことが決まっていた。

当初は夫の突然の決定に悶々としたが、ああやって強引に決まっていなかったら、大森に来る選択はできなかっただろうとも思う。

同年大森町に引っ越したが、最初の心配事は長女に女の子の同級生がいないことだった。人数が少ないなりにいいこともあるとは思っていたが、彼女にとって良かったのか確信が持てず、小学生になった今でも本人に楽しんでいるかと頻繁に聞いてしまう。

小野寺家の繁栄

夫の仕事が忙しく、最初の頃は長女と2人きりで過ごすことが多かった。

毎日静かな家に帰るのは長女がかわいそうで「大森は子どもが少ないから兄弟が多い方が楽しいのかな」と思っていた時、長男の妊娠が分かった。

2015 年に長男が生まれると、続けて2年後に次女が、そしてまた2年後に次男が生まれた。

「子どもは2人くらいかな」と思っていた東京時代より、はるかに賑やかな家庭になった。

大森での子育て

今は家も職場も保育園も同じ町内にある。退勤して15分もあれば子どもたちと家に帰ることができ、ゆっくりとご飯がつくれる。

もう時間には追われていない。

子どもの友達が少ないことは今も不安に思うことがあるが、町の子どもも増えたし、この町に来て友達は同年代だけではないということも知った。

身近な大人がちょっと歳の離れた友達感覚で付き合えるのはこの場ならではの幸せなことで、子育てという括りの中でも、一番と言っていいほど気に入っているところである。

決して裕福な暮らしとは言えないが、家を買い、この町で暮らしていく環境が整ったことで家計の不安も減った。

子どもに恥じない暮らしをつくる

島根に来て、群言堂に入って、暮らしを楽しめるようになった。

金継ぎや古道具直し、繕いなど、好きだった手仕事を日常の中で純粋に楽しんでいる。

大森で働く場をくれた会社や刺激をくれる仲間の存在のおかげだと、ありがたみを感じている日々である。

今、畑を耕し、自らの手で食べるものをつくるという目標がある。きっかけは、久しぶりにコンビニおにぎりを買ったら子どもが食べなかったことだ。

普段土鍋で炊いたご飯を食べているからだろうか。

そんな風に育っているのなら、そのままの方向に伸ばしてあげたい。子どもに恥じない暮らしを、夫とともにつくっていくつもりだ。

書き手:三浦類

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