軽くてあたたかくて肩の凝らないキルト生地を、綿でつくりたい
まるで手でザクザクと刺したようなダイヤキルト風の柄と、ふっくらとした凹凸感。伝統の刺子を彷彿とさせるような表情が愛おしく、ついしげしげと眺めて撫でさすりたくなる、そんな布ができました。「キルトジャガード」と名付けられたこの布は、「軽くてあたたかくて、肩の凝らないキルト生地をつくりたい」という群言堂のこだわりから生まれたものです。

ポイントは、ハイゲージな綿のカットソー生地の二重織に、薄手のポリエステル中綿を挟んだ三重構造になっている点。布帛のキルトよりしなやかで肌ざわりがやわらかく、ほんのりストレッチ性もあるため、着心地はどこまでもストレスフリー。ライトなアウターとして優秀なだけでなく、コートの中に重ねても快適なのです。「合繊繊維のキルトジャケットはなんだかしっくりこなくて……」と感じる大人世代にもおすすめできる自信作です。
この「キルトジャガード」を編んでくださっているのは、尾州産地の西部、岐阜県安八群に拠点を置くソトージェイテックさん。これまでにも「ぼろの美」をジャガードニットで表現した布など、群言堂にとっても思い出深い布の数々をつくってくださっています。

こだわったゆえの挫折もあった、製造の舞台裏
ソトージェイテックさんの前身は、大正時代初期に創業された毛織物・ニットの専門工場。国内デザイナーズブランドの隆盛期だった1980年代後半から1990年代には、さまざまなデザイナーと独創的なニット開発に取り組んだ気鋭のつくり手でした。その後、工場は残念ながら経営破綻してしまいましたが、そのすぐれた技術や職人を残すために、2009年に地元の大手繊維製造・加工メーカーが親会社となり、ソトージェイテックの名のもと再出発をしたのです。
そんな技術力を持つソトージェイテックさんにとって、キルトジャガードは「昔とった杵柄」とでもいうような布。しかし、群言堂のキルトジャガードは一筋縄ではいきませんでした。こだわったがゆえに生じた二度の失敗を経て、発表を1年見送らざるを得なくなった、苦心の作だったのです。
どんな苦労があったのか、ソトージェイテックの岩田宜弘社長と、企画の小野内政一さん、そして群言堂テキスタイルデザイナーの半田に話を聞いてみました。

群言堂テキスタイルデザイナー半田
「これ、一番初めは、斜めにステッチ柄が入ったような大きめのダイヤキルト柄にしていたんです。それも均一な線じゃなくて、手で刺したようなランダム感が欲しかったから、デザイン画を手で描いて……。でもそれだとリピート(柄の繰り返し単位)が大きくなりすぎて、編みの設計図がつくりづらかったんですよね。そこで次は、斜めマスじゃなくて正マス柄に変更して試し編みをしていただいたんですが……」
小野内さん
「そしたら今度は中綿が生地の目から飛び出しちゃった。編み上がった時はなんともなくても、仕上げ加工をほどこすと生地や中綿が多少縮むので、その時に生地と生地の接結点が少ないと、こうなっちゃう。ただこれって、やってみないとわからない部分があるんですよね」

結局、柄の大きさやピッチを変え、再度、斜めのダイヤ柄にして「三度目の正直」のチャレンジ。ソトージェイテックさんの方でも、中綿の素材を見直すなど工夫を重ねてくださり、ようやく2026年の秋にお届けできることになったのです。
漫才のような会話が飛び交う、愛すべき現場
ソトージェイテックさんでは、半田たちテキスタイルデザイナーが描いた原画をもとに、企画の小野内さんが編み図設計をして編み機を動かすデータをつくり、岩田社長をはじめとする職人さんチームが機械を操作してニッティング作業を行います。いわば小野内さんが設計士で、岩田社長や職人さんが大工さん、とでもいいましょうか。
すでに40年以上一緒に仕事をしてきた同志である岩田社長と小野内さんの会話は、まるで漫才のよう。愛嬌たっぷりな毒舌を飛ばす岩田社長と、それをニコニコ笑って聞いている小野内さん、というおふたりの姿も、すっかりお馴染みの光景です。

岩田社長
「今回のキルトジャガードのようなのはね、こっちにしたら“何を始めとるんだ!?”ってなもんでね。キルトは柄と糸番手の相性で合う合わないの差が出てくるんで、僕らとしては不安が大きいんです。もっと厚みのある生地なら楽なのに、編み地はハイゲージだし……。うちの古い機械でこれをやるのは大変なんですよ。これまでもむずかしいのはいろいろやらせてもらったけど、もうね、キルトは大っ嫌い!(笑)」
小野内さん
「あっはっは」
岩田社長
「いやいや、笑うとるけども!小野内くんは、こっちが抵抗しても群言堂さんに依頼された通りを再現しようとするからね。お客さんに頼まれたことはノーと言わないんだから。頑固なんですよ。僕がわぁわぁ文句言っても、小野内くんは“うんうん”って聞いてさ、最後に“それで?”って言うんだからね。今回だって失敗もしたけど、やめようとはならないよね」
小野内さん
「彼だって、こうやってやだやだ言ってるのも、ルーティンのうちですよ(笑)」

半田
「でもすっごく素敵なのができたので、今後も長く定番としてつくっていきたいと思ってるんですよ」
岩田社長
「ええ?そうなの?(こんなに大変なのを?と驚いた表情)」
半田
「こんなふうにカットソー生地で薄いのにあったかくて、アウターにもなるしコートの中にも着られる、っていうのはなかなかないんですよ!(と身を乗り出す)」
小野内さん
「おっと、グッと押してきた!(笑)」
岩田社長
「小野内くん、そこでパッと目を逸らさないとダメじゃない!(笑)まーた受け止めちゃうんだから!でもまあ企画者はこれぐらいじゃないとダメだよね」
「銀ちゃん来たよ!」は「断れないやつ来たよ!」の合言葉?
振り返れば、群言堂がソトージェイテックさんとものづくりを始めたのは2004年ごろのこと(当時は前身の会社で別名義)。それ以来、まだ世にないニットを求めて、さまざまな相談を投げかけてきました。「ぼろの美」を布帛でなくニットで表現するというアイデアもあれば、穴のあいたニット(さらにその穴の下に柄生地がひそんでいるというクセもの)を考案したことも。群言堂から無理難題が飛んでくるたびに、現場の皆さんは目を白黒させてきたことでしょう。

そのせいでしょうか。群言堂からの注文は、いつしかソトージェイテックさんの社内では「石見銀山」をもじって「銀ちゃん」という愛称で呼ばれるようになったとか。
岩田社長
「現場の我々にとったら、“銀ちゃん来たよ!”は、“断れないやつ来たよ!”の隠語みたいなものでね。先輩たちも、むずかしい作業依頼が入ると不機嫌になるんだけど、”これ銀ちゃんからだよ”って言うと、しゃあねえなあって顔になってましたよ(笑)」
半田
「うちって、普通のきれいな仕上がりじゃ満足しないから、そこは本当にむずかしいと思います。ちょっと揺らぎというか、味がある表情にしたいというのがあって……。ほんの微妙な違いでも、お洋服にしてみるとすごく差が出るので、そこはこだわりたいところなんです。でもこの20何年のお付き合いで、“これぐらいのさじ加減が好きなんだろうな”っていうのをすごくわかってくださってるのを感じて、ありがたいなって思ってるんです」
小野内さん
「そうやって毎年毎年、カンカンガクガクしながらやっていたら、10年20年があっという間でしたね」

岩田社長
「ほんとにあっという間。だから今までわぁわぁ言ってたようなことは漫才やってるだけでね、こだわった難易度の高いオーダーが減っているご時世ですが、そうやって挑戦し続けないと、技術が衰退していってしまうと思うんですよ」
小野内さん
「シンプルな無地ニットは、糸を機械にかけさえすればいいけど、それに気持ちも体も慣れちゃうとね……。本来こういう試行錯誤の積み重ねでやってたんだってことを忘れちゃいけないと思うんですよ」
岩田社長
「失敗を恐れて無難な道ばかり選んじゃうと、壁にぶち当たった時に乗り越えられなくなっちゃうからね」

小野内さん
「そういえば何年前だったかな、群言堂さんのお客さんが、うちに手紙をくださったことがあるんです。うちのニットを使った商品を買ったんだけども、すごく気に入っていますという内容でね。僕らって本来、お客さんからは見えにくい存在なのに、あんなふうにわざわざお礼を言っていただけるなんて、ありがたいですよね」
ポンポンと軽口を叩き合いながらも、ふとした拍子に、ものづくりへの愛情やプライドを垣間見せる岩田社長や小野内さん。群言堂のこだわりは、こういった方々の職人気質に支えられて形にできているんだという思いを改めて深くします。そしてそんな職人気質は、お洋服を手にしてくださった方にはちゃんと伝わっているんだということが、私たちに勇気を与えてくれました。
軽くて薄いのに、しっかりあたたかくて、唯一無二のクラフト感もあるキルトジャガード。きっとあなたの暮らしをあたためてくれるはずです。
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