お米 | 風土、いただきます vol.7

特別なお米「神結米」に隠された物語をたずねて

旬の味覚を味わうとき、見えてくる風景がある——。この里山の風土に息づく味な物語を訪ねるシリーズ第7回目は、出雲の「神結米」。「出雲国風土記」にもその名を残す小集落「結(むすび)地区」でつくられるお米です。神宿る山に見守られし豊穣の地を、今なお守り続ける人々の物語に、耳を傾けてみましょう。


むすび営農組合さんの「神結米」がお取り寄せできます

出雲神結米(5kg)

価格:税込 3,996円(送料別)
ご注文方法:むすび営農組合公式オンラインストアにてご注文いただけます。

「暮らす宿 他郷阿部家」の名物メニューである、かまど炊きごはんのおむすびに使われているのが、この「神結米」。もっちりした弾力や甘み、鼻に抜ける香りのよさは格別です。恵まれた土壌と、低農薬・低化学肥料の手間ひまかけた農法から生まれる味をお楽しみください。


おなかいっぱいでもつい手が伸びる、他郷阿部家のおむすびの秘密

「暮らす宿 他郷阿部家」の夕食のメインディッシュとして不動の地位を誇るのは、かまどに薪をくべて炊いたごはんのおむすび。塩で結んだだけのシンプルさなのに、数々の料理を楽しんだ後でもつい手が伸びてしまうと評判です。

「食味も香りも抜群で、冷めてもおいしいんです」と、他郷阿部家の料理人・小野寺拓郎も惚れ込むそのお米は「神結米(かみむすびまい)」。出雲市斐川町直江の「結地区」から届くお米(品種はつや姫)で、他郷阿部家ではもう10年来、お米はこれ、と決めています。

実は「結地区」という地名は、現在の地図上を探しても載っていません。しかし「出雲国風土記(*1)」をひもとけば、その名が古く奈良時代から存在していたことがわかります。今回はそんな豊かな物語を宿した土地へ、皆さまをご案内しましょう。

*1 出雲国風土記:奈良時代に朝廷の命令により、全国でつくられた風土記(地誌)の一つで、733年に完成。数ある風土記の中で唯一、ほぼ完全な形が残っています。

古代より豊かな実りを約束された「結地区」とは

この日私たちが訪ねたのは、結地区の28軒の農家さんによって組織されている「むすび営農組合」の事務所。迎えてくださったのは、組合長の佐藤文男さんと、理事の石倉さんです。地図には載っていない結地区ですが、この辺りで生まれ育った人は、「出身はどこ?」と聞かれれば「結地区だよ」と答えるのが、今でもごく自然なことだそうです。

組合設立の立役者である佐藤さん(左)と、出荷作業から広報、催事の売り子までなんでもこなす石倉さん(右)。

佐藤さん
「むすびの“むす”は、昔の言葉で“生む”とか“産ずる”、“び”は、毘とか霊で、神の力を意味するそうです。そんなことは地元の人間は誰も知らんかったですけどね、群言堂さんとのお付き合いが始まるタイミングで、“結地区の歴史を教えて”と言われたのがきっかけで、郷土史家の先生が書かれた本を読んで、初めて知ったんです」。

いかにも「古代より豊かな実りを約束された土地」というイメージが湧いてきますが、それが単なるイメージではなく実際の話なのだと力説するのは、お米屋さん勤務の経験を持つ石倉さんです。聞けば、石倉さんは松江出身ですが、奥さまが結地区出身なのだそう。

これまで10年にわたって組合に関わり、地域ブランド「神結米」の立ち上げにも尽力した石倉さん。愛嬌溢れるキャラクターで、催事の売場でも人気者です。

石倉さん
「たまたま私は松江で米屋に勤めちょったけ、島根だけじゃなくて全国のお米はいろいろ食べて、おいしいと思えばお客さんにすすめちょったんだけども、妻の実家で食べるごはんが特別においしくてね。なんでかな、なんでかな、って思うちょったんです。松江からこっちに引っ越してきて、だんだんわかってきたのは、この土地はお米だけじゃなく野菜も自然とおいしいものが育つんですよね。そういう住みやすい土地だったから、人が集まってきて一つの地域になったんじゃないかなと思います」。

結地区があるのは、「神が宿る山」と伝わる仏経山(ぶっきょうざん)、別名神名火山(かんなびやま)のふもと。澄んだ空気と水に恵まれている上、水もちのよい粘土質の土壌は米づくりに最適です。さらに山から吹き下ろす風によって、昼と夜の温度差が大きいのも特徴。冷え込む夜は、稲の呼吸がゆっくりになり、エネルギー消費が下がる分、養分がしっかりと稲に残るのだとか。

早朝には一面、朝もやが立ち込めるほど。この冷気と湿気がお米をおいしく育てます。

「こんなにおいしい米、やめたらいけんじゃないですか」

そんな結地区ですが、他の農村地帯と同様に、高齢化と後継者不足はすでに20年以上前から深刻化していました。さらにどの家も、平日は勤めに出て週末だけ田んぼで作業する兼業農家となっており、めいめいの家が自力のみで農業を持続するのは無理がありました。そこで解決策となったのが「営農組合」という仕組みです。

佐藤さん
「まずは農業機械の共同使用を目的として、組合を立ち上げたのが2005年です。そのうち結地区の田んぼ全部を組合で一本化して、みんなで共同作業する形になったんです。跡取りがいない家も増えてますからね、この体制がなかったら、今頃はこの辺りみんな耕作放棄地になってしまってたと思います」。

かつては役所に勤めながら週末兼業農家をしていた佐藤さん。組合設立の陰に、佐藤さんの視野の広さと実務能力があったことが伺えます。

そうやって協力体制を築き上げたものの、依然として残る問題は、結地区のお米のおいしさが世間にちゃんと伝わっていないことでした。それもそのはず、県下有数の農業地帯・斐川町の中では、この小さな結地区から産出されるお米はごくわずか。JAにお米を納めると、他の地域のお米と混ざった状態で出荷されてしまうため、「結地区のお米がうまい」という評価にはつながりません。したがって、結地区のお米のおいしさを知る人は、農家さん自身か、農家さんから直接お米をもらえる身内・知人に限られていたのです。

その状況を大きく変えたのが2016年、「神結米」と名付けた地域ブランドの立ち上げでした。

米袋のデザインは石倉さんが担当したそう。

石倉さん
「農業は体も辛いし、一般的な流通に乗ってしまうと自分たちで価格も決められない。やればやるほどジリ貧で、みんな疲弊してたんですよね。でも私たちとしては、 “こんなにおいしい米、やめたらいけんじゃないですか”って思ってね。神結米って名前をつけて、オリジナルデザインの袋に入れて売ってみようということになったんです。ここでちゃんと農業をやっていけるように、自分たちで商売までやっていこう、って決めたから、群言堂さんとも出会えたんですよね」。

みんなで力を合わせて育てる「神結米」から広がるつながり

山裾に広がる結地区は、おいしいお米が育つ反面、農作業の面ではハンデもあります。段々状に並んだ田んぼは大型機械が入りにくく、また斐川町のほかの地域に比べると、田んぼひと区画が1/10程度と小さく、生産効率はどうしても低くなってしまうのだとか。

水分をしっかり抱えこむ粘土質の土壌は、神結米をおいしくしてくれる反面、人や機械の足を取られやすく、作業も大変。それでも除草剤をできるだけ減らし、人が田んぼに入って手で草取りを続けているそう。

それでも先祖代々受け継いできた田んぼと神結米を守るため、メンバーで力を合わせながら、おいしいお米づくりに努力を重ねている「むすび営農組合」の皆さん。そんな努力の甲斐あって、最近は組合オンラインストアへの注文も順調に増え、まさに「結」の名のとおり、さまざまなうれしいご縁が結ばれているそうです。

低農薬・低化学肥料で栽培する「つや姫」は、まだ暑さの残る8月末ごろに収穫。「米粒が一番いい状態で刈り取ろうとすると、ちょっと早めの収穫になります。米粒を大きくしすぎると、量は取れるけども食味は落ちるんですよ」とお二人が教えてくれました。

石倉さん
「他郷阿部家とか群言堂の本店カフェで神結米を召し上がって気に入られて、またうちにご注文くださる方も多いですよ。わざわざお手紙をいただくこともあってね。米屋に勤めてた頃は、そんなふうにお客さんからお礼の手紙をいただいたことなんかなかったです。誰にも知られてなかったこの米を、こんなふうに直接お客さんにお届けできるようになって、ああ、ちゃんと伝わっちょるんだなあと思ってます」。

佐藤さん
「こだわった米づくりはとても大変だけども、それをやって評価されたり注目されたりして、農業が面白くて楽しくて稼げる、っていう世界をつくらんとね。他の地域と同じことをやっていてはダメです」。

お客さまから届いた手紙は、一通一通、事務所で大切に保管されています。

地元の魅力を掘り起こし、地域の希望をつないでいく

じわじわと評判が上がっている「神結米」ですが、土地や人手の関係上、これ以上生産量を増やすことはできないそう。そんな中で結地区を守っていくために、近年「むすび営農組合」では、農業体験やビオトープ活動に外から人を呼び込む活動も始めています。

佐藤さん
「外の目線も入れて、いまある28軒の農家がこの土地の魅力に気づくきっかけが増えれば、また状況も変わってくるかなと思いますね」。

石倉さん
「そうそう。意外と地元の人ほど気づいてないけど、本当にここは、米だけでなく野菜でも里芋でも筍でもなんでもうまいんですよ。だからいずれ米と一緒に、そういった旬のものもお届けできるようになればいいなあなんて思っちょるんですけどね」。

組合の倉庫で袋詰め作業をする石倉さん。「神結米には絶対的な自信があるし、これさえ持っとりゃあ、どこにも負けんと思っちょうですからね」と話します。

おふたりのお話を聞いていると、「むすび営農組合」が、単に米づくりの団体という立場を超え、まちおこしのプレイヤーとしての存在意義も持ち始めていることが伝わってきます。私たちに今すぐできることは「食べて応援」ぐらいかもしれませんが、汗水垂らしてお米や野菜を育ててくださる苦労に感謝しながら、これからも神結米を大切にいただこう。そしてこのおいしさを、一人でも多くの人に伝え続けよう。そんな思いを新たに、出雲を後にしたのでした。

阿部家料理人・小野寺拓郎のレシピ

おくどさんに薪をくべて炊いたごはんを、風味まろやかな隠岐海士産の塩でおむすびに。手にできるだけ水をつけないことと、真ん中を少しくぼませて、食べればホロリとほどけるように結ぶことが、小野寺のこだわり。


むすび営農組合さんの「神結米」がお取り寄せできます

出雲神結米(5kg)

価格:税込 3,996円(送料別)
ご注文方法:むすび営農組合公式オンラインストアにてご注文いただけます。

「暮らす宿 他郷阿部家」の名物メニューである、かまど炊きごはんのおむすびに使われているのが、この「神結米」。もっちりした弾力や甘み、鼻に抜ける香りのよさは格別です。恵まれた土壌と、低農薬・低化学肥料の手間ひまかけた農法から生まれる味をお楽しみください。


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